親が全部の道を決める?上海の子供が夢を失った訳。
前回記事、ユーさんのインタビュー記事は、
僕にとってはかなり予想外の回答でした。
え?やりたいことないの!?
なんやねん、日本と同じような感じ!?
言ってしまうと、「刺さらない」回答だったわけです。
いい悪いという話ではなく、
日本の若者にとってもやりたいことが見つからないのは大きな悩みの種。
しかし、その一見同じに見える「やりたいことが見つからない」状態も、
また別の角度から見てみると、
日本とは全く異なる「当たり前」から成り立っていることがわかります。
それを気づかせてくれたのは、王さん。
名前:王
年齢:50代
職業:大学観光学部教員
王さんは、以前立教大学にも1年間研究員として派遣されていた経歴を持ち、
現在は上海の大学で教員として働く女性です。
大学の先生だけあって、上海の学生のことを詳しく教えてくださいました。
潤p:上海の学生は、どんな学生生活を送ってるんですか?
王:遊んでばっかりの人も多いですよ笑 お酒や恋愛、遊び惚けてる学生が結構多いですね。でも、地方から来た学生は、比較的真面目に勉強する傾向にあります。
なんたって中国は広すぎる。
そしてその広さの分だけ、格差は大きく開いています。
上海のような大都会には全国各地から学生が集まりますが、
貧しい環境の中で大学へ進学した地方学生は、
強い志を持ち、
意識を高く将来を描いている傾向が強いと感じるそうです。
王:上海の戸籍を持っていない人は、家のローンも組めなければ社会福祉も受けられない。上海にいる同じ中国人でも、戸籍がどこにあるかによって、その暮らしは全然違いますよ。
都市部と農村部の格差の話は興味深いです。
昔までは、大学卒業後、
就職先の企業によって戸籍も自動的に移されたそうです。
しかし制度が変更された現在では、
企業が戸籍を移すことができなくなりました。
そのため出生地によって、
その人の人生は大きく左右されます。
上海の子が簡単に親からスネをかじるのと反対に、
農村の子は経済的に厳しい生活状況に置かれているんだそうです。
親が決めた進路と、大学の寮生活。
潤p:本当に、中国の親御さんは、子供の生活を全部決めちゃうんですか?
王:本当ですよ!90%の学生が、親に決められた大学の学部に進学すると思います。皆んな押し付けですよ。
「この勉強が好きだからこの学問を選んだ」
という生徒よりも、
親が就職にいい学部を選ぶというのが一般的だといいます。
中国の大学には、100%寮が併設されているそうです。
そして、授業料に含まれる寮費で、
ほとんどの学生が大学入学と同時に、
4年間、親元を離れ寮での生活をスタートさせます。
しかしこの制度が、新入生達に、
生活リズムの混乱をもたらすといいます。
王:今までずっと親のことばかり聞いて育ってきた子供達が、いきなり1人で生活することになって、皆んな混乱しちゃうんですよ。
そんなことが原因で、
全く勉強しなくなる生徒や、
前回記事ユーさんのように、
何をしていったらいいか自分で決められない生徒が続出するといいます。
一人っ子政策だけじゃない、親が心配する理由。
一人っ子政策の影響で、
愛息子、愛娘の将来を案じすぎてしまう親の気持ちが
これらの原因であることはいうまでもないかもしれませんが、
それ以外にも、就職制度も一因に絡んでいるようです。
実は、中国では、
ここ20年ほどに、やっと自由就職(自分で企業に申し込み、面接を行い就職を行うスタイル)が一般化されました。
1993年に制度が変更されまるで、
中国の大学新卒者は、
全て政府から就職先を決められていたのです。
つまり、大学に入るイコール内定が出ているようなもの。
その制度が、文化革命の流れの1つで変革され、
現在の大学4年次に就職活動をスタートするシステムが一般化したのです。
その理由は、もちろん中国が社会主義国家であるからこそ。
現在でも、社会主義の国だからこそ、
若者に人気の就職先No.1は公務員だといいます。
もちろん、制度が変更された90年代は、
混乱に伴い厳しい就職状況が生まれました。
そのような事実を目の当たりにし、
自身は就活をしたことがない現在の親世代が
より一層子供にかまうのはあたりまえかもしれません。
王:勉強勉強で、いったい自分が何をしたいのかわからない若者ばかりでよ。短期的な目標はあっても、いつも決められたコースばかりで夢を持てないんだと思います。
大学卒業後、就職先が決められていた王さん。
そんな王さんも、大学卒業後、
就職先が決められていた1人。
王:お見合い結婚と同じで、やりたくない仕事でも、知らないうちに愛情が芽生えていくんですよ笑
自分が何をしたいか王さん自身もわからず
決められたように教員になったという王さん。
しかし、気がついたら、教え子から慕われる自分がいたり、
そこからつながる出会いの数々によって、
いつのまにか教員は愛すべき仕事になっていたといいます。
それも素晴らしいことだと思うと。
王さんももしかしたら、自分の子供が心配?
実は、王さん。
大学の教員であると同時に、
娘を持つ、お母さんでもあります。
現在ドイツに留学をしているという娘さん。
ドイツではドイツ文学を学んでいるといいます。
しかし、彼女の昔の夢はアーティスト。
絵が得意だったという彼女。
一度、美術大学への進学を志したといいます。
しかし、最終的に美術の道を諦めました。
アーティストの学校にいくことは、
上海ではあまりいいイメージではないという印象や、
全生徒の行く大学が張り出される高校だったため、
メンツのためにやめた、
などの話も出ましたが、
王さんは笑いながら、
もしかしたら私が決めちゃったのかな?笑
と言いました。
教員であり、学生の動向をしっかりと把握している王さん。
同時に、母親として、娘の人生を案じる、
複雑な気持ちも混在しているのかもしれません。
中国の若者と、母親、
その両者にインタビューができた今回の上海での経験は、
事態を両面から把握できる、有益な機会になりました。