腹を壊した。 それも尋常でない腹の壊し方である。
腹を壊した。
それも尋常でない腹の壊し方である。
夜中うめき苦しむほどの、腹の壊し方である。
基本的にこれまで訪れた全ての国で腹を壊すという前人未到の偉業を成し遂げてきている潤pにとって、インドで腹を壊すことは、いともたやすいことだった。
いやむしろ、訪れた旅人の90%は一度は腹を壊すと言われるこの国で、腹を壊すことは宿命であるとさえ思えたのである。
そうとわかれば早いもので、いつ腹を壊すかは潤pと腹との我慢比べのようなものだった。
無論、苦しむことを好き好んでするわけもないので、極力徹底した食事管理を行った。
なるべく衛生状態の良さそうな店を選ぶ。
生物は野菜を含め絶対に食べない。
店で出される氷が溶けた水も飲まない。
さらに歯磨きの際もミネラルウォーターを使う。
もはや食事はとらない。
ならば水も飲まない。
こうなったら口を開けない。
病的なまでに気を使いすぎていた折、やつは突然現れた。
いつものように、ゲストハウスで出会った複数人で、夕食をとろうということになった。
久しぶりに、カレー尽くしの日々から離れて、たまには洋食でも食ってみようというわけである。
口数の多いわりに態度の悪い、ダルい店主のいる店だ。
コンニチハ!ニホンジン?スパゲッティ、ウマイ!
まんべんの作り笑顔の裏に、ルピーの匂いをプンプンとさせてやがる。
潤pはそのスパゲッティを注文する。トマト味の、インドのどこにでもある、茹ですぎて麺がぶっとくなった、クソまずいスパゲッティだ。
味は終わっている。
しかし、他のものを再注文するほど財力もない潤pは、黙々と苦行を終わらすのみ。
さて、食事を終え宿に戻り、夜を楽しもうとする折、どこか腹部に違和感を覚え始めた。
しかし、腹痛と運命共同体である潤pとしては、すでにこんなことには慣れっこである。
ところが、どうにも激しさを増してきた。
横になろうと休むが、痛みは倍増の一途をたどる。
便器にへばりつくようにして吐き、悶え、何が原因なのかを意識を朦朧とさせながら考える。
朝食は宿に含まれていたものだ。潤pだけがなるはずもない。昼食は、他の人とパイナップルを分けただけだ。その人は、ピンピンしている。
解は、無駄な方程式など立てずにも直感的に脳裏に花咲いた。
あのスパゲティやないか、、、あの、、、あの、クソ店主のスパゲッティやないか、、、
そう。勧められるがままに体内に取り込んでしまったあのスパゲッティこそ悪玉、閻魔大魔王。強烈な勢いで全身を蝕み始めた。
それにしても、まさかと思える。味はまずいとはいえ、店は清潔そうに見え、スパゲッティに生物は何も入っていなかった。
しかし、食あたりの腹痛で、ここまでひどい症状は初めてである。
意識は朦朧とし、同じドミトリーに泊まっていた他の人は、昨夜うめき声をあげ一晩中うなされ続ける潤pにうなされる一夜を過ごしたという。
翌朝、目覚めると、不思議と身体は回復へ向かっていた。ほぼ記憶にないが、ゲストハウスの現地人スタッフが昨夜、インド産の薬をくれたことで、一発で細菌を皆殺しにしてくれたようだ。
恐るべし、現地の薬。
あのスパゲッティ屋は、宿から街までの途中道にあった。
オニイサン!オニイサン!キノウ、タベタ!キョウ、タベル!!??
このとどまることを知らない殺意は、インドの神々への敬意を示し、ガンジス川に清め流すことにした。