オマーン人イスラム教徒のお父さんが語る、息子に託したい人生の幸せの形。
未知の国、オマーン。
アラビア半島の端っこに位置するこの国がどんなところなのか、日本人で知る人はほとんどいないのではないでしょうか。
環境、自然、宗教、建築、食、あらゆるものが日本とは遠すぎるこの国で生きる人々は、どのようにして人生を送っているのか。
今回は、オマーン人イスラム教徒のお父さんから、日本では滅多に聞けない自分の人生に照射させた実子への願いと人生選択、聞いてきました。
オマーンの外を知った、民泊ホスト、サイードさん。
こちらの記事の通り、オマーンで泊まった民泊。
そちらのホストがあまりにも親切な方で、たくさんのお話を聞くことができました。
そのホストがサイードさん。
*写真右
名前:サイード
年齢:不明
職業:政府機関
政府機関の外交職で働くサイードさんは、オマーン発着の航空路線の新しい乗り入れ空港と、受け入れ便を、世界の政府機関や航空会社と商談する仕事をしています。
そのため、海外出張がほとんどだそうでして、こうして民泊で受け入れてくれたのも、実はラッキーなタイミングだったり。
基本的に保守伝統的で安定した職を好むオマーン人とは対照的な、非常にグローバルな仕事をされています。
では一体何故サイードさんは、一般的なライフコースとは一線を画すキャリア選択をしたのか?
サイード:もともと、ついこの間まで、オマーンにはなーんにもなかったんだ。だから、多くの人が他国に出稼ぎに出てね。うちの父親もそうだった。父親の出稼ぎ先のレバノンで、私も生まれたんです。
だから初めはとても貧しい環境で育ったんです。だけどそんな時、当時のオマーン政府が、数人の学生をイギリスの大学へ無償で派遣するという国家プロジェクトを募集したんです。
そこで、これはチャレンジしてみたいなと思って、お金もなかったから、全く知らない世界に、しかも無料で行けるチャンスだと思ってね。そのプロジェクトに受かることができて、イギリスの大学でビジネスを学びました。
イギリスで大学生活を送ったサイードさんは、帰国後、現在の政府機関の仕事に就きました。
サイード:当時のイギリスでは、たくさんの差別も受けましたよ(笑)いい思い出ばかりではないけれど、それが、人生の大きな転機だったことは、間違いないと思います。
さらにその後、オーストラリアの大学でマスターも取得しているというオマーン人らしからぬライフコースを描くサイードさん。
石油が全てを変えちゃった、オマーンの不思議な労働事情。
ついこの間まで、おじいちゃんおばあちゃんの世代が出稼ぎをしていた、とか、ついこの前まで部族ごとに家畜や領土を奪い合ってたなんて話が信じられないほど、今のオマーンは平和で豊かです。
なんせ物価が高いのなんのって。
東京育ちの潤pが言うもんですから、そりゃたいそう高いわけです。
そのすべてのキーは、石油。
生活水準、地価、物価が著しくインフレーションしている傍に、未だに民族衣装を身にまとい、ラクダを放牧して、伝統的な生活を送るオマーン人のあまりに対照的な謎の答え、すべては石油。
オイルマネーで一気に潤ったオマーン。しかし、そのあまりにも急激すぎる潤いは、国と国民に今までに見たことのなかった富だけをもたらして、他の産業を育てたり、教育レベルを向上させるものではなかったといいます。
教育や産業というのは、国の成長とともに必要に応じて順を追って成長していくもので、そもそものベースがない環境では、機能しないのは当然。
戦後、産業で国を立て直していった日本とは真逆の成長過程です。
そのため、これだけ豊かなオマーンでありながら、産業が育っていないが故の若者の職不足や、教育制度の未熟さが問題として存在しています。
学生は大学卒業後も、職務経験が積める環境はほぼありません。
そのため最近、一部企業や、公務員では、一定期間大卒者を預かって教育させる取り組みを行っていますが、短い期間に意味をなさないケースも多々あるとか。
本当に教育に関心のある人は、海外の大学へ。
最近、そうした一部の留学から帰ってきた若者が、自分なりの西洋風のビジネスを展開し始めているそう。
西洋スタイルの商品や食べ物の販売、10年前同じことをやろうとしたら頭がおかしいと思われたようなビジネスが、今、若者たちの手で始まっているそうです。
お金があっても、そのたの選択肢がないという、あまりの急激な成長によって生み出される不思議な労働環境。
そして、それを少しずつ打破しようとする若者のエネルギー。
しかし、このような環境が生まれる理由にはもう一つ、古くからの伝統社会に基づく、オマーン人の価値観も影響しているようです。
オマーン人父親の、子供に託す本当の気持ち。
サイード:オマーン人は、お金をたくさん稼ぐより、家族と離れず幸せに暮らしていく生活を好む人々なんだと思います。稼ぎたい人は稼げばいいし、稼ぎたくない人は稼がなくていい、そんな社会が、この国にはあるんだと思うんです。
2人の子供を持つサイードさん。これだけのインターナショナルなキャリアと価値観を知りながら、自分の芯となる価値観を語ってくれました。
サイード:もし自分にお金がなければ、子供にはずっと家にいて欲しい。でも、今は事実お金があるから、子供のために海外の大学へ行って欲しいと考えています。
オマーン人の一般的なモデルコースは、教育期間が終了すれば、仕事をして、家族を作って、家を建てて、生涯を終えるというものだそう。そしてそれが、とても素晴らしいことだと考えられているようです。
確かに、オマーンで出会った人たちの暮らしを見ていれば、手に取るようにわかること。
家族をとても大切にして、親戚関係も多く、地元の人はほとんどが身内や友人。
ラクダが車に変わって、家畜がスマートフォンとテクノロジーに変わっただけで、住んでる社会は昔から変わらない、未だに部族社会が残っているように見えていた理由がそこにあるようです。
個人主義ってなんだっけ?
サイード:イギリスに留学していた時や、仕事でヨーロッパへ行く時、いつも感じることがあるんです。それは、人々の距離がとても遠いこと。皆んな1人で生きているように見えて、私はそれがとても悲しいことだと思うんです。
度々、ヨーロッパなど先進国での個人化の話に触れるサイードさん。
どれだけその現代的に当たり前の価値観を知っても、家族や友人との共同体としての部族意識を好むとサイードさんは言います。
それはどこか、イスラム教徒の平等意識と連帯意識に強く繋がるものもあるように感じます。
サイード:いつどこに行くか、何をするか、それを全部皆んなにいわなきゃいけないんだ(笑)でもそんな世界を私は子供の世代までずっと残していきたい。疲れる時だってある。疲れたら、そのヨーロッパの個人主義を、ちょっと借りればいいだけさ(笑)
絶対的な資本主義のもとに、競争と個人化が、誰も疑わない当たり前となった現代社会、日本。
しかし、人生の幸せの形に絶対なんてもものはなくて、世界、国、人それぞれなんだと思います。
急激なオイルマネーで爆発的に成長したオマーンという国で、未だに人々が伝統社会に生きるのは、そんな幸せの選択の1つなのかもしれません。