人口の半分が外国人!? オマーン人と外国人労働者の、不思議と円滑な共生社会。
男:おい!お前!インドネシア人か!
オマーンの首都マスカットの公園でたたずんでいると、1人の男が話しかけてきた。
ここはイスラム教徒の国。その国で一番良く見かけるアジア人といえば、同じムスリム国のインドネシア人なんだろうから、疑われても仕方がない。
潤p:違いますよー。日本人です。
男:そうか。俺はパキスタン人だ。
インドとは打って変わって、人も少なく、静か〜なオマーンの昼下がり。
話しかけてきたのはオマーン人かと思いきや、パキスタン人の男。
潤p:パキスタンからですか!
男:パキスタンには仕事がないからね。こうしてオマーンにやってきたんだ。今はレストランで働いてる。
潤p:外国から来る人も多いんですか。
男:当たり前だろ!ほら!あそこに座ってる2人を見てみろ。あれはバングラデッシュ人だ。
その後も、その公園にたたずんでいると、いるわいるわ外国人。
*夕暮れ時を過ごす、多種多様な、諸外国からやってきた労働者達。運送業ドライバーや飲食店従事者など。
オマーンに来て、驚いたこと。
え!? 人口の半分が外国人!?
オマーンはもはや人口の半分が外国人だそうだ。
サービス業従事者のほとんどは外国人労働者であるという。
そんな事情を、現在オマーンで働くインド人ビジネスマンのAさんが、中東名物シーシャを一緒に吸いながら教えてくれた。
A:ほら、見てごらん。ここのウェイター達。全員バングラデッシュ人だよ。
潤p:どうしてわかるんですか!?
A:服さ!俺らインド人やバングラデッシュ人は洋服を着る。でもオマーン人、皆んな伝統衣装を着てるだろ? あれは、自分がオマーン人であるってことを示すために着てるって意味もあるんだよ。
*乗合タクシーの中
バスや乗合タクシーなど、最低レベルの乗り物には、必ずといっていいほどオマーン人は乗っていない。
乗客はインド人やバングラデシュ人ばかり。
平和に回る、不思議なオマーンの共生社会。
オマーンでは、オマーン人と外国人労働者との、完全なる役割分業が行なわれている。
華やかに生きるオマーン人に、周辺諸国からの外国人労働者が従事している様は、一見恐ろし光景に見えるのだけれども、これが意外と上手く回っているらしい。
A:オイルマネーで一気に潤ったこの国は、物価も上がって、諸外国の労働者にとっては最高の労働環境になったんだ。
他のアラブ諸国では、金銭で人の上下が決まって、相手を奴隷のように扱う国も多いんだけど、ここオマーンでは、国王の整備した平等政策と、オマーン人の持ち前の穏やかさで、とても安定して平和な労働環境が出来上がっているんだ。
ムスリム国というのも手伝って、周辺諸国のムスリム、バングラデッシュ人やスーダン人、インド人ムスリムなんかには、一番訪れやすいアラブ国だと思うよ。
では、オマーン人は一体、どんな仕事をしているのか?
オマーン人の多くは、石油産業の利権保持者や農場や商店の経営者、その他土地売買など、権利収入で生活している人が多いという。
確かに、民泊で宿泊したオーナーの1人も農場経営者で、そこでは複数人のバングラデッシュ人が農夫として雇われていた。
A:アラブ人って働きたがらない人たちだと思うよ(笑) 外国人を雇って、その上がりの飯を食う人が多いんだ。そう考えたら、石油産業って、彼らにピッタリな仕事だと思わない?
面白い点は、両者が共生して、社会がとても円滑に回っているということ。
A:アラブ人って、超金持ちか貧困層しかいなくて、中間層がいないんだ。国が発展して、様々なサービスの需要が増した時、必要だった中間層に外国人労働者が流入することで、とても円滑に社会が回るようになったんだ。
*服装で、人種がわかるオマーンの町
サービス業などの仕事に従事するのを嫌うオマーン人の穴を埋めるようにやってきた諸外国からの労働力。
総合的に良環境で高い給料をもらうことができるようになった彼らにも、ここオマーンで働くことのアドバンテージは大きい。
双方のパズルが綺麗にぴったりとハマるように、ここオマーンではウィンウィンな社会が成熟過程にあるようだ。
A:オマーン国内にある外資企業は、社員のうち何人かは必ずオマーン人を起用しなければならないって法律もあるんだ。
さらに、外資企業は、オマーン国内では独自に企業活動ができず、オマーンの会社と必ず提携を組まなければならないという決まりなど、政府によるオマーン人の保護政策も存在し、調整されバランスのとれた経済が築かれている。
A:ドバイを見てごらんよ。競うように超高層ビルが建って、完全な競争資本主義を体現しているようなところでしょ?もう、中東にあるアメリカだね。でも、オマーンがあんな風になることはないと思うな。未だに伝統社会に生きていて、穏やかに平和を好んで、今の暮らしを大切にするオマーン人だからこそ、今のこの国があると思うんだ。
これまで訪れてきたすべての国で感じてきた「忙しさ」を一切感じることのないオマーン。
その1つの理由を、なんとなく知ることができた気がする。
それでも生まれる、格差の問題。
最後に、それでも残る、問題について。
オマーンの海岸沿いを散歩していると、車椅子の1人の老人に会った。
しばらく話をしていると、こんなことを言う。
老人:お兄さん、夜は気をつけるんだよ。1週間前、夜ここと同じ場所でゆっくりしてたら、バングラデッシュ人の男に囲まれて、お金を盗まれたんだ。最近たくさんの外国人がここにやってきてるけど、私はそれが怖いよ。
最近はマーケットでのスリ事件なども発生するようになったというオマーン。
外の世界からやってきた外国人労働者で仕事に就けなかった人がそのようなことに手を染めているのだろうか。
いずれにせよ、今までどの国のどこの社会でも類を見ることのなかった不思議な社会構造。
オイルマネーの終焉と、外国人労働力のさらなる流入、人口増加など、確実に揺れ動いていくこれからのオマーンの「働く」も、興味深く見て生きたい。