格差の就活事情【メキシコの格差構造を変えてやりたい】生い立ちに負けない1人の原住民系学生のキャリアプラン。
大きなバックパックを抱え、メキシコシティの地下鉄を移動している時、目の前にいた1人の若者が話しかけてきました。
男:それ、重くない? 何キロぐらいあるの?
さすがはラテンアメリカ。
地下鉄内で見ず知らずの人に話しかけるなんて、オープンなお国柄。
危険な犯罪も多い場所なので、はじめは少し警戒しながらも、
潤p:大学を休んで世界を旅してるんだ。
男:そうなんだ!僕も大学生だよ!UNAMってとこ!今から授業に行くところなんだ。
すっかりいい奴っぷりがわかったところで、メールアドレスをもらい、翌日に大学案内をしてくれるところまで約束してくれたのが、彼、メキシコ人のエンリケ。
名前:エンリケ
年齢:23歳
職業:メキシコ国立自治大学 経済学部生
地方出身の、情熱的なメキシコ男のエンリケ。
高校時代には奨学金をとり、単身アメリカで短期間の留学も行いました。
大学では経済学を学びながら、同時に自ら服や帽子をデザインして手売りやネット販売するスモールビジネスにも取り組んでいます。
メキシコ最高峰学びの園、UNAM。
彼の通う大学は、メキシコ最高峰、いやラテンアメリカ最高峰と言われる大学、メキシコ国立自治大学(Universidad Nacional Autonoma de Mexico 通称UNAM)。
潤p:この大学に入ろうと思ったきっかけは何かあるの?
エンリケ:家庭の金銭的な理由で、私立大学にはいけなかったから、公立の大学に行く必要があったんだ。(ポケットからコイン一枚を出して潤pに見せる)授業料なんて、このコイン一枚ぐらいしかからないんだよ!
*UNAM校舎
UNAMは、奨学金制度なども充実し、メキシコの幅広い層の教育レベル向上に貢献していることでも有名な大学です。
エンリケは、メキシコの統一入試で合格し、この大学への入学を決めました。
風変わりなキャリアプラン。
潤p:これからはどんなキャリアプランを立ててるの?
エンリケ:卒業後か、その前かに、アメリカでインターンをしたいんだ。まず第一歩目のキャリアをアメリカで積んで、そこから必ずメキシコに帰ってきて、政府機関の仕事につきたいって考えてる。
*UNAMの学生たち
メキシコで総合大学を卒業した若者は、すぐに就職するのが基本形。
新規一括採用のないメキシコで、職探しのキーになるのがインターン。
多くの学生が、在学中にインターンに取り組みます。
しかし、在学中は学業に専念したいというエンリケ。
卒業後のアメリカでのインターンを希望する、人とは少し異なるキャリアプランを持っています。
いったいどこからそのモチベーションは来ているのでしょうか?
*UNAM校舎
生まれから背負う、メキシコの格差問題。
エンリケ:メキシコの格差って知ってる?
潤p:んん?? あまり知らないなぁ。。。
メキシコには、大きく分けて2つの人種が存在しています。
原住民系と、ヨーロッパ系。
原住民系は、モンゴロイドを先祖に持つ元からメキシコ地域に住んでいた人々、ヨーロッパ系はスペインなどのヨーロッパ諸国から渡ってきた白人です。
*原住民系の人が多い街の屋台。
エンリケ:原住民系の人たちは貧しくて、ヨーロッパ系の人たちは裕福なんだ。いい大学に行けるのもヨーロッパ系、いい企業で働けるのもヨーロッパ系。何100年も前の支配構造が、未だに残っているんだ。僕はこれが悔しい。こんなことがある限り、メキシコは一生発展しないと思うんだ。
彼は、その、原住民系の血を強く引き継いでいるメキシコ人。
混血が当然のメキシコで、白人系の血も混ざりながらに、原住民系の血を受け継ぐ自らの人生と、メキシコ社会に深く根を張った格差構造に、憤りを感じています。
*メキシコシティのヨーロッパ系の多いエリアは近代化を遂げている。
国を捨てる、メキシコ人の若者たち。
エンリケ:最近のメキシコの若者は、すぐ海外に出ていって、その国に永住しようって考える人が多いんだ。
トランプ政権の樹立に伴いメキシコ移民に対する制限が厳しくなったと同時に、カナダがメキシコ人を受け入れる体制を表明したニュースが話題になった直後でした。
実際、メキシコ人の母国離れの話は潤pの耳にも届いていました。
エンリケ:僕もまずはスキルを得るために、アメリカに渡ろうと思ってる。でも、必ずメキシコに帰ってくるよ。僕にとっては、外国に行って得られる安定した生活よりも、この国を変えることの方がずっと大切なんだ。どんな状況でも、自分の生まれたこの国を見捨てたくはない。Never give upでチャレンジし続けたいと思ってる!
*エンリケが招待してくれた、メキシコ人大学生のホームパーティー
国を変えたい、1人のメキシコ人大学生。
彼は、国家規模の経済政策を学んでいます。
今取り組んでいるのは、ソーラーパネル事業。
直射日光の強いメキシコで、新しいエネルギー源の普及政策をプロジェクトとして取り組んでいるんだそう。
エンリケ:いつかこの事業を、自分の地元で実践したいと思ってるんだ。
彼が考える未来は、新しい無限の自然エネルギー事業を基盤とした、メキシコの社会構造の変革です。
ある晩、お酒に酔っ払いながら、エンリケは真剣な眼差し潤pにこんなことを言いました。
エンリケ:潤p、お前の旅は素晴らしい!! 本当に大切なことに挑戦しているんだと思う。僕も、自分の実現したい夢にずっと挑み続けていきたい!
またいつか何年後かに、お互いがどんな風に成長したか、語り合おうと再会を誓ったエンリケと潤p。
自らのバックグラウンドからくるメキシコの社会構造への憤りと、それを変革していこうという熱意。
経済成長とひた走るこのメキシコシティで、素敵な若者に出会うことができました。