国籍もパスポートもない若者たちの、社会に風穴をあけるカウンターカルチャー。@イスラエル・ゴラン高原に住むドールズ教徒の若者たち。
旅をしていると、「見極め」を試されることが多い。
これ、本当に美味しいのか?
これ喰っても、腹壊さないか?
ここは、危なそうだから行くのやめよう。
これ、ハニートラップじゃないよね。。。
一番難しいのが、
この人信じてもいいのか!?それとも悪人!?
もしかしたらすーげぇ面白い人なのかも!?
*めちゃめちゃ怪しかったけど結果めっちゃいい人だったミャンマー人のバスの客引きおっちゃん
クラブで会う人信用できる!?
イスラエルはテルアビブの夜な夜な。
テルアビブ1の貧困街にある、怪しさ満点のクラブに行った夜。
そこで、2人の男に出会いました。
男:やぁ!
潤p:どうもぉ。
男:どうよ?テルアビブの夜は?
潤p:ボチボチっすぅ。。。
男:何人?
潤p:日本人ですよー!
男:えぇええええええ!!!日本人なの!?俺!日本めっちゃ好き!!!
こんなに怪しい会話はない。
でも気がついたら、めちゃめちゃ仲良くなっていた。
その夜はそこで別れて、翌日。
あ、そーいえば、連絡先聞いてたなぁ。
連絡してみるかぁ。(なんとなく)
潤p:昨日はありがとう!よかったらまた会いましょう!
男:こちらこそありがとう!ゴラン高原に住んでるんだけど、もしこっちに来る機会があったら、是非連絡して!うち泊まればOKだから!
ゴラン高原。。。 どこかで名前聞いいたことがある名前だぞ。。。
。。。そうだ! あの、よく中東戦争で取り上げられる!
ゴラン高原とは、中東戦争でイスラエルが奪取した元々はシリアの土地。
詳しくはこちら参照→ゴラン高原(ゴランこうげん)とは - コトバンク
北にレバノン、東にシリアと接する、これはまぁ火種の多そうなところなのです。
なんでしょう、これはバックパッカーの習性なのか。
この彼の誘いに、なんだかものすごいそそられる。
そんなとこ、、、行くか!?
いやぁ、、、でもこの人本当に信じられんの?
周りのバックパッカーに聞いても、行くような人いないし。。。
もし悪い人だったらどうしよう。。。
行く!? 行かない!?!?
よし、いぐぅううううううううううう!!!!!!
ゴラン高原行っちゃった!
エルサレムからゴラン高原に行くには、直通のバスが出ています。
キリヤット・シュモナというイスラエルの入植地が、ゴラン高原あたりの最も安全とされるエリアです。
今回は、バス停まで、あのクラブで出会った2人が迎えに来てくれるのです。
*アーヘム:写真右
アーヘム:おぉ!!!よく来たね!!!早速車に乗って、俺たちのゴラン高原までいくぜー!!
彼らは、「まさか」の人だった!
車に乗ったはいいものの、やっぱ、潤pこの人たちのこと全く知らない。
クラブで話す話なんてアホな話ばっかだし、何より酔っ払っててあんまり記憶がないのです。
潤p:ごめん!もっかい名前確認さして!
PH:俺、PH!こいつが、アーヘムね!
PHは土木業、アーヘムは果物を運ぶトラムの運転手。
*PH:写真奥
PH:今から行くのはね、ゴラン高原のブカタって俺らの街。
潤p:初めてだよー!
PH:全然、外国人なんていないからねw てか、ここには、ドールズ教徒しかいないからねw
潤p:ドールズ教!?
PH:あ、知らない??
潤p:ごめん!知らない。
PH:イスラム教の一派っていう人もいるけど、また別の、独自の宗教なんだ。この辺りに住んでるんだよ。俺の家族も、アーヘムの家族も、皆んなドールズ教。ドールズ教徒の村なんだ。
*ゴラン高原へ向けて!
なんという展開!?
一体なんだ!?これはすごい展開になった。
謎の宗教コミュニティに、これから行くっていうのか!!
*ドールズ教とは→ドゥルーズ派 - Wikipedia
ドールズ教徒の村、ブカタ。
車がブカタの街に入ると、外には異様な人たちが歩いている。
頭に白い布を、目以外すべて覆ったような女の人たち。
まさに!アンパンマンのロールパンナちゃんを思い浮かべてもらえればそのまんまの人たち!
男性も、不思議な帽子を頭に乗っけている。
PH:これがブカタ。皆んな、不思議な格好してるだろ? ここにはユダヤ人もムスリムも、外国人もいないんだ笑
しずかーな、村。
スーパーに行けばロールパンナちゃんのような女性がレジ係をしている。
潤pが街を歩けば皆んな振りかって見てきます。
規模も小さく、不思議な世界に踏み入れてしまったよう。
よそ者が入ってはいけない、誰も知らないファンタジーの世界にやってきてしまった、これぞアリス。
国籍のない人たち。
PH:おい潤p!見てくれよ!パスポートがこの前発行されたんだ!
嬉しそうにパスポートを見せてくれたPH。
目を疑ったのは、彼のパスポートの国籍欄には「未確定」と書かれている。
彼らは一体。。。
ゴラン高原はついこの間までシリア領であって、それがイスラエルに併合された土地。
なので、彼らはもともとシリア人として生まれた人たちです。
しかし、戦争で事情が一変。
自分の住んでいた土地の国が変わったのです。
さらに、住んでいるのはイスラエル領土内ではあるのですが、イスラエルからイスラエル国民として認められているわけでもない。つまり、国籍を持たない人たちなのです。
そのため、基本的にパスポートは発行されない。取得するのにも、困難な手続きが必要です。
その代わりに、パレスチナ人が持っている身分証明書を彼らも持っているといいます。
*PHがくれた郷土料理
PH:俺は、もともとシリアの首都、ダマスカスの大学で薬学を勉強していたんだ。自分の生まれ故郷で学びたくて、そのために行ったんだよね。凄い綺麗な街なんだ。でも途中で情勢がどんどん悪化してきて、どうしようもなくなって、ゴラン高原に戻ってきたんだ。
今の世界情勢から見て、ダマスカスに住んでいたなんて信じられない話です。
PHの友達の1人は、こんなことを言っていました。
潤p:イスラエルの若者は、兵役終わったら海外に飛び回る人が多いらしいね?
男:兵役はおれらにはないよ。でも、その代わり、海外には行けない。彼ら(イスラエル人)は行けたとしても、おれらは彼らじゃないからね。
衝撃的な答えで、ちゃんと事情を把握していなかった自分が申し訳なくなります。
厳しいドールズ教の小さな世界。
*街に翻るドールズ教の旗
PH:ドールズ教は、とても秘密主義で厳格な宗教なんだ。祈りも人前では絶対できないし、この宗教を一度止めたら、二度と教徒に戻ることはできない。外国人が改宗することも許されないんだ。ISは、ドールズ教徒を殺せば天国に行けるって信じてるらしいしね(苦笑)。
確かにこの村をみれば、厳かに住民たちは宗教世界の中に暮しているように見えます。
しかし、PHを中心とした若者たちを見ると、全くそうは思えないのは当然ながら。
まず、めちゃめちゃオシャレ。
PH:俺は、正直ほとんど宗教心がないんだ。無宗教に近いね。でもそのせいで親とは凄いもめてるんだ。家に帰れば喧嘩ばかりだから、いつもアーヘムの家に泊まってるような生活だよ(笑)。
潤p:そんなに厳しい宗教なんだね。。。
PH:俺の兄貴は、アメリカに今住んでるんだけど、ドールズ教を止めてアメリカに行ったんだ。だから、親と絶縁して、もう二度と会えないってことまでなってるんだ。ドールズ教はそうゆう宗教なんだよ。
ちなみに、俺もパスポートとっただろ?あれまだ親に言ってないんだ。もし親に言ったら、俺まで絶縁されちゃうよ(笑)
PHの父親は建設業者だそう。兄の1人はエルサレムからテルアビブに掛かる電車レールの建設責任者を担っているらしい。建設業一家なのです。
新しい風を。
夜は、PHとその他の友人たちと、地元の若者が集まる行きつけのバーへ。
ウェイターも客も、全員友達のよう。
*若者が集まるバー
内装もオシャレで、賑やかな雰囲気。
この村の中で「浮いている」存在なのは確かですが、日中の村では感じられなかった空気が、満ち満ちています。
男:おい潤p!PHが昔やってたカフェのこと知ってるか?
潤p:え!?カフェもやってたの?
PH:あーー、、、もうたたんだけどね(苦笑)。
男:最高のカフェだったよ。夜にはバーになってさぁ。村一番にクールなカフェだったよ。
内装を凝ったデザインで、村一番の若者のたまり場だったというPHのカフェ。
親とのトラブルで、彼は店をたたんだと言います。
*PHの元カノさん:左
PHのもう一人の兄は、現在タトゥーアーティストとグラフィティアーティストとして活動している。
PHの元カノさんも登場。派手な髪色とファッションで、この村に絶対似つかわしくないスタイル。
PHたちもネット注文やイスラエルで手に入れたというオシャレな服に、自分で加工を加え着こなす、村きってのオシャレさん。
ヒゲの手入れは毎日欠かせない。
*お兄さんのタトゥーショップ
彼らはこの村に、間違いなく新しい風を吹き込んでいます。
小さな伝統社会に風穴をあける、アンチテーゼな若者たち。
アーヘムが、こんなことを聞いてきました。
アーヘム:どうだ?この街。
潤p:とってもいいとこだよ!
アーヘム:そうか。俺にとっては、めちゃめちゃつまんない街だけどね。
彼らの自由はことごとく制限されています。
1つは人種の制限。
国籍を持たず、自分たちが住んできた土地も戦況によって立場が変わり、パスポートもなく国外にも出られない。
あれだけパレスチナ自治区が世界から注目される中で、誰にも知られず、このような環境下に生きる人々もいるのです。
PHは地元を強く愛しているように見えましたが、他の多くの若者は、出て行きたくても出て行けないという葛藤の中に生きているように見えました。
次に、宗教の制限。
非常に厳粛なドールズ教徒として生まれ、そのコミュニティに育ってきた人々の人生選択には、常に宗教思想に沿ったものが強制される。
彼らのように無宗教として生きようとすると異端児の烙印を押され、村からつまはじきにされ、それでも他に生きて行く場所がない。
彼らはそんな環境の中で生きています。
*PH馴染みのカフェ。ボブマーリーののれんがかけられている。
しかし、潤pは彼らと生活してその生き方を目の当たりにしてみて、この旅でも印象的な興奮を覚えるのです。
彼らのスタイルは、かっこよすぎる。
*ラテアートを書いてくれるPH
この何もなく、自由もない村で、その世界に必死に風穴を開けようとする彼らの姿が、実にかっこいい。
それは、ファッションやアートから始まり生き様や思想まで。
今までなかった新しい波をカウンターカルチャーとしてこの小さな村に表現している。
彼らの勇姿には、心打たれるものがあるのです。
潤p:PH、夢とかあるの?
PH:このブカタの村に、もう一度カフェを復活させたいよ。バーやクラブじゃダメなんだ。みんながゆっくり話ができる、そんな空間をもう一度作りたい。
この誰も知らない小さな村で、若者たちが新しいムーブメントを作り出しています。
たまには人を信じてついてきてみると、頭がひっくり返るすごい体験ができるもんなのです。