あ、私、不潔ですね。
バックパッカー界のしきたりといえば、髭を伸ばし、髪を無造作に放置し続けることであることは、周知の事実である。
かくいう潤pも、そのしきたりに敬意を評し、ここまでの旅路、髭と髪とをひたすらに伸ばしてきたわけである。
とりわけ髭というものは、めっぽう日本人女子からの受けが悪い。
女子に受けるか受けないかを意思決定における最重要課題として全権を委任している潤pとしては、これまで髭などとは程遠い人生を送ってきた。
そんな中、孤立無援のこの旅で、ついに女子の呪縛から解放されたことで髭を生やしてきたことも、ご了承頂ければ幸いなのである。
さて、バックパッカーのお馴染み東南アジアから、聖地インドを抜け、危険地帯アフリカを駆け抜けてきたわけで、その髭に長髪の、まさに自由を謳歌するさすらい人の姿は、この旅路には映えるものであった。
インティライミにはなりきれずギターこそないものの、この勇猛果敢なストライダーに、男の美学を感じずにはいられなかったのである。
さて、旅は続く。
灼熱と土埃のイスラエルを発った後、潤pが流れ着いたのは、彼の地、ドイツはミュンヘン。
空港に着いた瞬間に、これまで嗅いできた匂いとは明らかに異なる空気感が、潤pを包む。
な、なんじゃぁ、これぇ、、、焦
東京生まれ東京育ちであったことなどとうに忘れ、野を這い、ゴミ飯を手で喰らい、クソを撒き散らしてきた漢には、このあまりにも都会的で洗練された空気感に、敵意すら覚えてしまう。
空港のトイレの流れる勢いは強く、
電車のチケットも全自動化され、これまで毎度繰り返してきたかわからないチケットブース係との押し問答もなくなった。
空港から市内までの電車のスピードは恐ろしく早く、
何より、安全を肌に感じずにはいられない。
まるでタイムスリップしてしまった原始人のごとく、眼に映る全てが新鮮で、ただただ慣れない。
そうだ、潤pはついに、先進国と言われるヨーロッパエリアに、足を踏み入れたのである。
ハッと目覚め、東京人の感覚が足底から湧き上がってくると同時に、気づくことがある。
皆んな、やたらと、清潔だぞ?え??
新しい服や靴を身にまとい、整えられた髪に、綺麗に剃られた髭で、ドイツ人達は、オシャンなカフェんでティーでも楽しんでいる。
途端に、高級ブティックのショーウィンドウに映る自分の姿が、恥ずかしく思えてきた。
なんだ、、、このクソ汚ねぇ男。。。
かかとがすり減り、誰のものかもわからぬクソを踏み続けてきた靴に、洗いすぎて色あせたTシャツ、髪は無造作に縮れている有様だ。
不潔の代名詞が、そこにいるのである。
何よりの問題は髭である。
確かにドイツ人で髭を伸ばしている輩は多いものの、DNAなのか、勇ましく蓄えられ、それでいて清潔に整えられた、まさにカッコのつく髭なのである。
対する潤pといえば、伸ばしているとはいえ、遺伝的にちょびちょびしか生えず、顎髭なんかはもってのほか、雑魚さ満載でお届けする、貧弱な髭アジア人なのである。
もう迷うことはない。
その日から、潤pは服を買い揃え、貧弱な髭を剃り落としたのである。
いやー!これで、都会人に戻ったぞ!
こうして、潤pのヨーロッパ旅が、軽快な足取りと、剃り整えられたニューフェイスで、スタートしたのである。